2024.05.12

インストラクショナルデザインとは

目次

インストラクショナルデザインとは

 インストラクショナルデザインとは教育活動において効果・効率・魅力を高めるための教育設計の理論・方法のことをいいます。教育設計は、カリキュラムやシラバスの設計だけでなく、ビジネス目標・戦略などその他さまざまな環境要因を加味しつつ最大限の効果をあげる設計方法です。なお、欧米では古くから教育工学の中心的概念として広く用いられてきています。Instructional Designの頭文字をとって「ID」といわれることもあります。
 言い換えると、インストラクショナルデザインは、効果的な教育・研修プログラムを開発するための体系的な方法論です。学習者の目標達成を支援するために、学習内容の分析、教材の開発、評価方法の検討などをを行います。近年、企業におけるeラーニングの導入や、人材育成の重要性が高まる中、IDの需要も高まっています。

研修

インストラクショナルデザインの活用:教育の進化を加速させる戦略

 インストラクショナルデザイン(ID)は、教育効果を最大化するための体系的なアプローチであり、現代の教育現場における最重要課題の一つです。その起源は、第二次世界大戦中に米軍が兵士の効率的な訓練方法として採用したことに遡ります。戦後、その有効性が認められ、学校教育や企業研修など、幅広い分野で応用されるようになりました。

 特に日本では、2000年頃からeラーニングが普及し始めると、インストラクショナルデザインの重要性が一層高まりました。従来の集合研修とは異なり、eラーニングでは学習者が自分のペースで学ぶことができます。そのため、学習者の多様なニーズに対応し、効果的な学習体験を提供するためには、綿密な設計が不可欠です。インストラクショナルデザインは、まさにそのための指針となるものです。

インストラクショナルデザインの必要性

 グローバル化や技術革新が加速する現代社会において、個人や組織は常に変化に対応し、競争力を維持していく必要があります。そのためには、継続的な学習とスキルアップが欠かせません。しかし、時間や資源には限りがあるため、教育には高い効果と効率が求められます。

インストラクショナルデザインは、学習目標を明確化し、学習者の特性やニーズに合わせた教材やコンテンツを開発することで、学習効果を最大化します。また、学習プロセスを評価し、改善を繰り返すことで、より効率的な学習環境を構築することができます。

インストラクショナルデザインの活用事例

インストラクショナルデザインは、学校教育、企業研修、eラーニングなど、あらゆる教育現場で活用されています。例えば、企業研修においては、従業員のスキルアップやキャリア開発を支援するために、インストラクショナルデザインに基づいた研修プログラムが開発されています。

また、近年では、オンライン学習プラットフォームや教育系アプリなど、テクノロジーを活用した教育サービスも増えており、これらの開発にもインストラクショナルデザインが欠かせません。

インストラクショナルデザインのモデル

インストラクショナルデザインには、様々なモデルがあります。ここでは代表的なモデルを2つご紹介します。

ADDIEモデル

 分析(Analyze)、設計(Design)、開発(Develop)、実施(Implement)、評価(Evaluate)の5つの段階で構成されています。 

1. 分析(Analysis)学習者のニーズ、目標、学習環境などを分析します。

  • 学習ニーズの特定: 誰が何を学ぶ必要があるのか、どのような課題を解決したいのかを明確にします。
  • 学習者の分析: 学習者の年齢、知識レベル、学習スタイル、モチベーションなどを把握します。
  • 学習環境の分析: 学習が行われる場所、利用可能なリソース、時間的制約などを考慮します。
  • 目標設定: 学習者がプログラム終了時に達成すべき具体的な目標を設定します。

2. 設計(Design)学習内容、教材、評価方法などを設計します。

  • 学習内容の設計: 目標達成に必要な知識やスキルを洗い出し、学習内容を構成します。
  • 教材・コンテンツの設計: 学習内容を効果的に伝えるための教材やコンテンツ(テキスト、動画、演習問題など)を設計します。
  • 評価方法の設計: 学習目標の達成度を測るための評価方法(テスト、レポート、観察など)を設計します。
  • 学習戦略の設計: 学習者の主体的な学習を促すための活動やインタラクションを設計します。

3. 開発(Development)教材を作成します。

  • 教材・コンテンツの作成: 設計に基づいて、実際の教材やコンテンツを作成します。
  • 学習プラットフォームの構築: eラーニングの場合は、学習プラットフォームを構築し、コンテンツを配置します。
  • パイロットテストの実施: 少人数の学習者を対象に、教材やコンテンツの有効性を検証します。

4. 実施(Implementation)学習プログラムを実施します。

  • 学習プログラムの実施: 開発した教材やコンテンツを用いて、学習プログラムを実施します。
  • 学習者のサポート: 学習者がスムーズに学習を進められるよう、質問対応やフィードバックを行います。
  • 進捗状況のモニタリング: 学習者の進捗状況を把握し、必要に応じてサポートや調整を行います。

5. 評価(Evaluation)学習プログラムの効果を評価します。

  • 学習効果の測定: 学習目標の達成度を評価します。
  • プログラムの評価: 学習者の満足度、教材の質、学習環境などを評価します。
  • 改善点の特定: 評価結果に基づいて、プログラムの改善点を見つけます。
  • 改善の実施: 特定された改善点に基づいて、プログラムを修正・改善します。

 ADDIEモデルは、一度きりのプロセスではなく、継続的なサイクルとして捉えることが重要です。評価結果を次の分析段階にフィードバックすることで、プログラムの質を継続的に向上させることができます。

カークパトリックモデル

 カークパトリックモデルは、教育プログラムや研修の効果を評価するためのフレームワークであり、アメリカの教育学者ドナルド・カークパトリックによって提唱されました。このモデルは、教育効果を4つのレベルに分けて評価し、各レベルにおける具体的な指標を提示することで、より多角的で客観的な評価を可能にします。

レベル1:反応(Reaction)

  • 評価対象: 学習者の満足度、興味関心、学習意欲
  • 評価方法: アンケート、インタビュー、観察
  • 評価指標:
    • プログラムの内容は分かりやすかったか?
    • プログラムは興味深かったか?
    • プログラムは役に立つと感じたか?

レベル2:学習(Learning)

  • 評価対象: 学習者が知識やスキルを習得できたか
  • 評価方法: テスト、レポート、実技試験、観察
  • 評価指標:
    • プログラムの目標としていた知識やスキルを習得できたか?
    • 学習内容を理解し、説明できるか?
    • 学習した知識やスキルを実際に活用できるか?

レベル3:行動(Behavior)

  • 評価対象: 学習した内容が実際の業務に活かされているか
  • 評価方法: 観察、インタビュー、行動記録、自己評価
  • 評価指標:
    • 学習した知識やスキルを業務で活用しているか?
    • 業務における行動や態度に変化が見られるか?
    • 学習した内容が業務パフォーマンス向上に貢献しているか?

レベル4:結果(Results)

  • 評価対象: 学習プログラムが組織の目標達成に貢献したか
  • 評価方法: 業績評価、売上データ、顧客満足度調査、生産性指標
  • 評価指標:
    • 学習プログラムが組織の目標達成に貢献したか?
    • 売上増加、コスト削減、品質向上などの成果が見られるか?
    • 顧客満足度や従業員満足度が向上したか?

 カークパトリックモデルは、単に学習者の満足度だけでなく、学習成果、行動変容、組織への貢献度までを包括的に評価できる点が特徴です。各レベルの評価結果を分析することで、教育プログラムの改善点を見つけ出し、より効果的なプログラムを開発することができます。

インストラクショナルデザインのメリット

 私たちは、教育をほぼ全員が受けてきているため自身の意見を持っています。そのため、個人の経験に基づいた価値観をもっています。これらの価値観で設計された研修や教育は、効果・効率が高いものである場合もあります。一方で、個人や自組織のバイアスがかかり、実際にはそれほど高くないこともありえます。 

 インストラクショナルデザインは、効果・効率・魅力を高める理論・方法などの枠組みであるため、基礎として考えることによりバリューを上昇させる確率の高い教育設計が可能です。 

 もちろん、インストラクショナルデザインとして確立された一般的な理論に、その組織・個人の価値観を加えて受講者にマッチししたデザインを構築していくことが大切です。

弊社の講座開発や教育コンサルの理論

 私たちは、インストラクショナルデザインの理論をベースに講座を開発しています。インストラクショナルデザインとは効果・効率・魅力を高めるための教育設計の理論です。お客様のニーズに基づきゴールを設計し、どうしたら効果的・効率的にゴールを目指すことができるかを考えます。インストラクショナルデザインを専門に学べる大学院としては、熊本大学院教授システム学専攻がありますが、弊社のインストラクショナルデザイナーは本校の修士課程を修了しているインストラクショナルデザイナーがデザインを担当しています。